The spirit of the Cherry Blossom. Translated by Karen Santry told by Heisei Nakamura TSUMORUKOI YUKINOSEKINOTO PLAYED BY ACTOR – BANDO TAMASABURO

 

The woman was the spirit of a cherry tree, Sumizome Cherry, which the late Emperor had loved most of all. After death of the Emperor, the color of its blossoms were lost. But the song composed by talented Princess Komachi Ono infused life into the tree and restored its beauty. This is why the tree is called Komachi Cherry. Since songs by nature exist to calm the soul and words transfer it, it can be said that the spirit of Komachi revived the tree. Thus the cherry tree lived on like a human being.</span>   Unbelievable it may seem to modern people, the people in the ancient days had a firm belief that flowers and trees, like human beings, had their should and lived their lives. It was only natural then that the spirit of a cherry tree would be incarnated as a woman. Indeed the cherry tree, which was revived by komachi, came out to this world in the shape of a courtesan and loved a man.

 

墨染 積恋雪関扉

 

女は桜の精であった。

この桜は墨染桜といい先帝がこよなく愛した桜であった。帝の死によって花の色を失ったのを歌の名手小野小町姫の歌の徳によって蘇生し、ふたたびもとの美しさを取り戻した。そのために今では小町桜という。歌はもともと魂をしずめ、言葉は魂を移すものであるから、小町の魂が桜を蘇生させたといってもいい。桜は人のように生きていたのである。

現代人には信じがたいことであるが、昔の人間は花にも木にも人間と同じように心があり、人間と同じように生きていることを信じて疑わなかった。だから桜の精が人間の姿をしているのはいわば当然であった。事実小町によって蘇生した桜は遊女の姿になってこの世にあらわれ一人の男を愛した。男は小町の恋人良峰宗貞の弟安貞であった。小町桜は小町の恋人の似姿を求めたのである。そしてその安貞が殺され、宗貞や小町姫に危険が及ぼうとする時、男の仇を討って恨みを晴らそうとする。その仇こそ今またこの桜を伐ろうとする男すなわち大伴黒主であった。

常磐津の舞踊劇「積恋雪関扉」は、舞台の中央に飾られたこの桜を中心にした複雑怪奇な物語である。総ては桜に始まり桜に終わる。桜の精も小町姫も実は桜を中心にした一人の「女」であり、だからこそ墨染の恋人と小町姫の恋人は兄弟なのである。これは一つの迷宮的世界である。

玉三郎の演じた墨染桜の精は、この女形の芸質にぴったりの役であった。人間の女ではないという妖気がただよっていかにも桜の精という感じが体に溢れている。しかも同時に遊女の不思議なさびしい人生がうかんでくる舞台であった。